横山一郎(三浦・三戸自然環境保全連絡会)
【日程と記録】
2月26日(金)
<政府果川庁舎訪問>
マ・ヨンウン氏,パク・ジョンハク氏(ともにKFEM)の案内で果川庁舎を訪れ,4大河川事業について日本から調査団として訪韓したことを伝え,訪問団全員による4大河川再生事業本部での面談を求めたが,代表者4名に限定されたいへん残念であった。しかも庁舎引っ越し中を理由に誠実な対応が得られなかった。
ロビーには,干潟と鳥たち,棚田や水田と子どもなどたくさんの写真が展示されたいへん好感がもてるのだが,この美しい写真と,現実に行われている自然河川をだめにする事業とのギャップに驚かざるを得ない。
<清渓川視察>
ソウル市内の清渓川を視察した。私は,5年前にまだ工事中であった現地を実際に見て知っているので,清渓川が都市の流水として市民の憩いの場になり成果を上げていることはすばらしいことだと感じた。しかし,清渓川はポンプで水をくみ上げている人工の流水であり,これを自然河川に適応することは誰の目にも無理があるとわかる。李明博大統領は歴史的な勘違いをしていることに早く気づくべきである。
<夕食時のミーティング・KFEM事務所におけるレクチャー>
マ・ヨンウン氏,パク・チャングン氏(関東大学土木工学科),チョ・ナムスン氏(弁護士・KFEM環境法律センター副所長)ほかの皆さんからレクチャーを受けた。4大河川を運河でつなぐ「大運河構想」は現実離れした暴挙であるが,4大河川事業もそれに劣ることのない自然破壊である。流域総合計画・都市マスタープランの変更・環境アセスメント等,大きな5つの計画を10ヶ月ほどでやってのけてしまったと聞いた。これほどの大事業を行うには,環境アセスだけでも数年を要するものであり,「政策ありき」の無理な事業であることが浮き彫りである。下位の法律が上位の法律を変更することは日本では考えられないことであり,上位計画の変更は時間をかけて行うべきである。また,関係省庁のコメントも流動的で,2~3年前は「固定堰がなくなると水質が改善される」と言っていた水質局が現在では「固定堰を作っただけでは水質は悪化しない」と言っているそうである。政治姿勢に翻弄される行政ではなく,科学的で客観的な科学者の助言を元にすべきではないか。
2月27日(土)
<パルダン有機農業地域>
ソウル市の水瓶であり,たいへん優れた有機農業の実践地域であるパルダンの農家の皆さんの悲痛にも近い声を聞くことができた。都市近郊において有機野菜を作り,都市で販売する流通経路は持続可能な発展の典型と考えられるので,世界の模範となる事例であろう。2012年世界有機農業大会がこの地で開催されることは,この地が高い評価を受けている裏付けである。また,年間12万人もの人々がエコツアーで訪れると聞き,私が活動している日本国内の地域でも参考にできる内容であると感じた。また,ハンガーストライキをしている神父の声を,どうしたら下流のソウル市民に届けるかが鍵なのではないかと感じた。ハンガーストライキをやるのはソウル市内のたくさんの人々が目につく所でもよいのではないだろうか。
<イポ・グァンチョン視察>
イ・ハンジン氏(ヨジュ環境運動連合)ほかの案内で,ハンガンの中流のイポダムとグァンチョンダムの現場を視察した。どの現場もあきれるほど愚かな事業計画であり,同じ地球にすむ人類として怒りを感じた。南ハンガン大橋で警察のヘリが私たちの上空を飛んだことは,この4大河川事業が問題であることの裏返しである。どうしてマスコミのヘリコプターは飛んでこないのか?
<アンドンの学校にて>
ナントクガン沿いを下り,アンドンにてチ・ユル氏(尼僧)の巡礼団と合流した。また,イ・ジュンギョン氏(川を活かすネットワーク事務局長)からナントクガンの危機的状況についてのレクチャーを受けた。
2月28日(日)
<巡礼団とともに河回村~屏山湿地を歩く>
早朝より巡礼団と行動をともにし,世界遺産である河回村を通りピョンサン湿地まで歩いた。チ・ユル氏率いる巡礼団は,環境保護運動にとどまらない崇高な運動であると感じた。結局,環境も政治も「人の問題」であり,今回の巡礼団は人の問題が最も重要であり,かつ,難題であることを教えてくれた。
道は日本の里山に似た景観の中にあり,アカマツとクヌギをはじめとする落葉広葉樹の林が続く。クヌギは若木が多く,管理を適切に行えばこの景観はずっと続くであろう。世界遺産を守るためには,ナントクガンにダムを造るのはもってのほかであり,さらには,樹林の管理をも行う必要がある。
<クダン湿地・サンジュダム・ナクタンダム・クミダム視察>
前日と同様に,各地の工事現場を見学した。どこも全く同じく非道な状況であった。青龍寺からはサンジュダム建設現場を見たが,見事で広大な中州は,運ばれてきた浚渫土で平らにならされ見るも無惨な姿であった。クミでは,釜山から合流した一行と別れた。韓国ではこの深刻な環境破壊を前に各地の環境保護団体の連携ができている。これは,たいへんすばらしいことなので,是非さらに運動を盛り上げ,連携を図って欲しいと願う。さらには,東アジアの環境保護団体の連携が深まることを期待している。
<テジョンでの会議>
テジョン環境連合事務所において,イ・サンドク氏(グリーンコリア・テジョン共同代表),パク・ジョンヒョン氏(グリーンコリア・テジョン事務所長),コ・ユンア氏(テジョン環境運動連合事務所長),ホ・ジェヨン氏(テジョン大学土木工学科教授),ユ・ジンス氏(クンガン流域環境会議事務所長)ほか,クムガン流域で活動するたくさんの方と交流することができた。また,今回の視察を通して,セマングムの保全に尽力されているチュ・ヨンギ氏や,私と同じく教員をしながら環境保護活動をされているパク・ジュンロク氏と出会うことができたのはたいへん光栄であった。今後も,互いの厳しい状況を分かち合い交流できればと考えている。
3月1日(月)
<クンナムポ視察・記者会見>
冷たい雨でずぶ濡れになりながら,イ・ギョンホ氏(テジョン環境運動連合)ほかの案内でクンナムポを視察した。この3日間で目にしたのは,全ての河川で痛ましい公共事業が急ピッチで進められているという現実であった。日本ではあまり見られなくなった美しい自然河川が韓国には残されていた。これは韓国の財産であったはずである。先祖代々受け継がれてきた美しい自然河川に工事の手が入るときには罪悪感が伴うであろう。工事を行っている関係者は,もはや痛みを忘れているに違いないと思った。
共同声明を私たちの代表花輪伸一氏(ラムサールネットワーク日本共同代表)らが読み上げ,取材に訪れた多くの報道陣に対して記者会見をした。今回の視察団の声を多くのマスコミが取りあげて,韓国の国土を台無しにする4大河川事業にストップがかけられることを心から期待する。
【謝辞】
今回の視察団について,企画運営をしてくださったラムサールネットワーク日本事務局の皆様,韓国事務局田中博様,たくさんの韓国の環境保護活動家の皆様には感謝の気持ちでいっぱいである。日々,地元の環境保全活動に四苦八苦し,何か解決のヒントがないかと参加させていただいたが,自分の地元の問題と規模がかけ離れた,隣国の理不尽な開発に心が痛んだ。帰国し,あらためて地元の問題にも全力で取り組もうと決意を新たにした。
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